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遺産分割協議が進まないときはどうすればいい?原因別の対処法を解説


遺産分割協議が進まず、どうすればいいか困っている方は多いのではないでしょうか。

遺産分割協議がスムーズに進まなければ、相続税の特例制度の適用が受けられなくなったり、不動産活用ができなくなったりする可能性があります。

そのような状況を避けるには、原因に応じた適切な対処をすることが大切です。

この記事では、遺産分割協議が進まないときに起こる問題や原因別の対処法を解説します。

遺産分割協議が進まないときの相続税の申告方法も紹介するので、ぜひ参考にしてください。

遺産分割協議が進まないときに起こる問題

遺産分割協議が進まなければ相続税の特例制度の適用が受けられなくなったり、不動産の売買ができなくなったりする可能性があります。

ここでは、遺産分割協議が進まないときに起こる問題を紹介します。

相続税の特例制度の適用が受けられなくなる可能性がある

相続税は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内に申告しなければなりません。

遺産の分割方法や割合が期限内に決まらなかった場合は、法定相続分で分割したと仮定して申告することになります。

ただし、遺産分割協議を終えていない状態では「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」の適用を受けられません。

それぞれの特例の概要は以下のとおりです。

特例 概要
配偶者の税額軽減 被相続人の配偶者が相続した遺産が1億6,000万円または法定相続分相当額より少なければ相続税が非課税になる
小規模宅地等の特例 一定要件を満たした居住用または事業用の土地の評価額を減額できる

ただし、相続税の申告書とあわせて「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出すれば、申告期限から3年以内に分割できたときに特例の適用を受けられます。

遺産分割協議を終えていない状態で申告するときは「申告期限後3年以内の分割見込書」の提出を忘れないようにしましょう。

不動産の売買ができない

不動産は遺産分割協議が終わるまで相続人全員の共有財産となるため、勝手に売買することができません。

不動産が手放せない状況になると、固定資産税を負担するだけの状態が続いてしまいます。

不動産を有効活用するためにも、遺産分割協議がスムーズに進むようにほかの相続人に呼びかけをしましょう。

新たな相続が発生して相続関係が複雑になる

遺産分割協議がまとまっていない状況で法定相続人が死亡すると、2次相続が発生してしまいます。

2次相続とは、相続人となった人が亡くなったときに発生する相続のことです。

たとえば、祖父の遺産を法定相続人の祖母と父、伯母の3人で相続する場合、遺産分割協議がまとまる前に父が亡くなると、父の配偶者と子どもなどに相続が発生することになります。

このように2次相続が発生すると、法定相続人の把握が難しくなったり、相続人が増えて相続関係が複雑化したりする可能性があるので注意しましょう。

遺産分割協議が進まない原因と対処法

遺産分割協議が進まない主な原因として、以下の4つが挙げられます。

  • 分割割合で意見が合わない
  • 連絡が取れない相続人がいる
  • 遺産が確定できない
  • 不動産が分割できない

それぞれの対処法もあわせて詳しく解説します。

分割割合で意見が合わない

相続人が法定相続分で分割することに納得すれば、遺産分割はスムーズに進みます。

しかし、故人の介護や生活支援をしていたことを理由に、法定相続分で分割することに納得しない人が現れるケースがあります。

分割割合の意見がまとまらない場合は、弁護士などの専門家に介入してもらうのがよいでしょう。

それでも遺産分割協議が進まないときは、家庭裁判所に調停を申し立てることになります。

遺産分割の調停は、調停委員が法定相続人の意見を聞き、話し合いによる解決を目指す方法です。

話し合いによって意見がまとまらない場合は、審判に移行し、裁判官が遺産分割の割合を決定します。

連絡が取れない相続人がいる

遺産分割協議には、法定相続人全員が参加しなければなりません。

連絡が取れない法定相続人を除いて行われた協議は無効となるため、連絡を取る必要があります。

連絡先がわからないケースと、連絡を無視されるケースの対処法をケース別に見ていきましょう。

連絡先がわからないとき

法定相続人の連絡先がわからないときは、戸籍附票で現住所を確認しましょう。

戸籍附票とは、同じ戸籍に属する人のこれまでの住所履歴が記載された書類のことです。

戸籍附票は、本籍地の役所やコンビニ交付サービスで本人や配偶者、親や子などの直系親族が取得できます。

ただし、結婚によって新たな戸籍がつくられている場合は確認できません。

戸籍附票を取得できず、行方不明で連絡が取れない場合は、不在者財産管理人制度の利用や失踪宣告をしましょう。

不在者財産管理人制度とは、法定相続人が行方不明の場合に本人の代わりに財産を管理する人を選任する手続きです。

不在者財産管理人は、家庭裁判所の許可を得たうえで遺産分割や不動産の売却などを代行できます。

失踪宣告とは、家出などの行方不明状態が7年以上または災害や遭難などで生死不明状態が1年以上続いた人を死亡扱いとし、遺産分割協議に参加しなくてよいとする手続きのことです。

不在者管理人の選任や失踪宣告は、家庭裁判所に申し立てることで実行できます。

不仲や疎遠で連絡を無視されるとき

不仲や疎遠で連絡を無視されるときは、遺産分割協議に参加しなければならないことや、遺産分割調停をせざるを得なくなることを伝えて、説得する必要があります。

無視が続く場合は、弁護士に相談して専門的な立場から説得してもらうのがよいでしょう。

それでも連絡を無視される場合は、遺産分割調停の申し立てをすることになります。

遺産分割調停を申し立てると、家庭裁判所が法定相続人を呼び出してくれます。

遺産が確定できない

遺産が多い場合は、すべての遺産を把握するまでに時間がかかります。

法定相続人のなかには、故人の預貯金を私的に使い込んで相続財産を開示しないケースもあります。

財産の確認に時間がかかる場合は、弁護士などの専門家に相談して早めに遺産を確定しましょう。

不動産が分割できない

相続財産に不動産が含まれている場合は、分割方法の意見が合わないことがあります。

不動産の分割方法には、以下の4つがあります。

分割方法 概要
現物分割 遺産を現物のまま分配する
代償分割 相続人の1人が現物の不動産を取得し、ほかの相続人に代償金を支払う
換価分割 不動産を売却し、現金化して分割する
共有分割 不動産を複数の相続人で共同保有する

相続する不動産が1戸の場合や、評価額が異なる複数の土地を分割する場合は、代償分割や換価分割を選択するのがよいでしょう。

一方、共有分割を選ぶと、不動産を売却する際に共有者全員の同意が必要となったり、共有者の配偶者や子供に相続された場合に権利が複雑化したりするので注意が必要です。

遺産分割協議が進まないときの相続税の申告方法

相続税の申告期限までに遺産分割協議がまとまらないときは、法定相続分で分割したと仮定して申告しましょう。

相続税の申告書と「申告期限後3年以内の分割見込書」をあわせて提出すれば、申告期限から3年以内に分割できたときに配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例などの適用が受けられます。

申告期限から3年以内に遺産分割協議を終えたら、分割が行われた日の翌日から4ヶ月以内に更正の請求をしましょう。

更正の請求をすれば、払いすぎた相続税の還付を受けられます。

更正の請求は、被相続人(亡くなった人)の住所地を管轄する税務署に提出します。

なお、裁判が続いていたり、相続人の意思確認ができなかったりする状況など、やむを得ない事情があるときは、所轄税務署長の承認を得ることで、申告期限をさらに延長することが可能です。

やむを得ない事情が解消されてから4ヶ月以内に遺産分割を終えて、更正の請求をすることで、相続税の特例制度の適用を受けられます。

遺産分割協議が進まないときは原因に応じた適切な対処をしよう

遺産分割協議がスムーズに進まなければ、相続税の特例制度の適用が受けられなかったり、不動産活用ができなくなったりする可能性があります。

そのような事態にならないためには、どのような原因で遺産分割協議が進まないのかを把握したうえで、適切な対処をしなければなりません。

自身で解決するのが難しい場合は、弁護士などの専門家の力を借りましょう。

相続に関する相談先に悩んでいる方や、遺産分割後の家計状況に不安がある方は、お気軽にご相談ください。

監修者:東本 隼之
AFP認定者、2級ファイナンシャルプランニング技能士

この記事を書いた人:松本愛
松本愛
金融ライター|2級FP技能士|これまでに金融分野の記事を100記事以上執筆。保険・税金・資産運用分野を得意としている。読者のお金に関する悩みや不安を解消するために、金融分野の執筆活動を続けている。